「69 ONEMAN LIVE タオイズム」オフィシャルライブレポート公開!
ゆとりくん率いる音楽プロジェクト“69(無垢)”のワンマンライブ<69 ONEMAN LIVE タオイズム>が12月15日(月)、東京・渋谷WWWで開催された。

2018年にInstagramアカウント『古着女子』を立ち上げ、初期投資ゼロの“インスタ起業”として「yutori」を創業、以降「9090」などのファッションブランドを展開し、2023年にはアパレル業界最年少で東証グロース市場へ上場したゆとりくん。2024年からは69として音楽活動を始め、“YTR”名義で全曲の作詞を手がけている。
ライブ当日、暗い舞台の上にはバンドセットと共に、幾つもの仏像の影がある。ひときわ大きい光背を持つ観音菩薩立像に目を引かれる中、客電が落ちてバンドメンバーが楽器を持てば、満員の会場から「ゆとりくん」コールが起こった。それに応え、両手を挙げてゆとりくんが登場、歓声の中「ハグレモノ」で今宵の火蓋を切る。腹底に響くベースの重低音に乗り、ゆとりくんの声は真っすぐに澄んで通った。
2曲目には早々に新曲「成り上がリッチ」を披露。挑発的なメロディに乗せて、これまでの“成り上がって来た”半生を地に足付いたヴォーカルとパフォーマンスで歌えば、赤と青との照明が混じり合い、ひと仕草ひと仕草に白い衣装の色が変わる。

ここで呼び込まれたKOHEIは、「Y2N」で艶やか且つピュアな歌声を響かせる。それは低音が張ってダウナーなゆとりくんと対を成す声質ながら、オクターブが溶け合えば、バンドメンバーも音楽の快楽に微笑んだ。サーチライトが照らす中、ハーモニーが競演する「Q」。観客がステージの熱量に応え手を挙げると、ふたりもドラムが作るビートに呼応する。
「次も新曲なんですけど、みんなスピってますか?」
そんな問いかけと共に始まったのは、本日2曲目の新曲「スピってる」。ベースとギターが鏡合わせに向き合う中で、サイケデリックなメロディと電子音とがリズムの脈動にあわせて目まいを呼び起こす。それらは怪しげなようでいて、リリックは彼らのポジティブな堅実さを示唆していた。
ステージと観客とで「TAO~」「TAO~」の挨拶を楽しみ、続くはゆとりくんが最初に作った曲だという「junk(ey)」。バンドが作るヘヴィなサウンドに背中を預け、赤い光に沈んだふたりも声を振り絞る。
6曲を終え、「皆さん楽しんでますか~?」の問いに観客が大きな声で応えると、ゆとりくんは「ヤバいね。最高の人生だね!」と喜ぶ。
「今年は僕、激動の1年で、ぶっちゃけ大変だったんですよね」
そう切り出したゆとりくんは、2024年から2025年にかけてを振り返る。2024年に自社が上場したという話題の際には、「ライブハウスで“上場”って言葉を聞く機会はなかなか無いと思うんですけど……」と観客を笑わせた。しかし、新鮮なできごとが多かった2024年に対し、2025年は忙しく刺激が多くも、それに対してうまく打ち返すことができなくなってしまったそうだ。
「表向きにはわからないと思うけど、心の中は空洞で、刺激に対してそのまま反射して飛びつく、みたいな日々が続いていました」
全てがめまぐるしく過ぎていく中、アーティスト活動を始めるも、己の心と向き合わねばならない「歌詞を書く」作業に対し、“感じる力”が落ちていたゆとりくんは「何も書けない」ことに苦しんだ。「平成のポジティブな感じにも、悲しいとき置き去りにされたようで苦手意識がある」彼は、悲しみや苦しみを否定せずにいたいと考えている。
「皆さんも大変なことや苦しいことがいっぱいあると思うんですけど、大丈夫です。皆さんは頑張ってます。拍手しましょう!」
次にゆとりくんが語るのは、「タオ(道)」についてのことだ。
「“流れ”っていうものは絶対にあって、無理に自分が何かを起こそうとしなくても、勝手にどこかに向かって行くことがあります。僕は神様はいると思ってるから、皆さんは無理にポジティブになる必要も、ネガティブになる必要もなくて、ありのままに感じて、何かに気付けばいいんです。身の回りの些細なことに気付ければ、何かヒントがあるから、とにかく感じて、気付いてください」
そう熱心に語る彼を、仏像たちが優しく見守っていた。
ライブも中盤へ差し掛かり、ここからはメロウな楽曲が続いていく。潮風が吹くように寄せては返す歌声がステージからあふれ出す「FLEXIN」、そして青色に染まった舞台でKOHEIがエモーショナルに歌い出す「BLUE BOTTLE」へ。波の如き煌めきの中、ゆとりくんはおどけて手をくねらせる。「雪国」ではヘッドライトに照らされる粉雪めいたスモークをゆとりくんの手がなぞり、観客もゆっくりと手や頭を振る。続く「SUMIRE」は甘い歌声で深く余韻を残すKOHEI。その手が天を指せば、指輪が照明を反射して絵画めいた印象を残す。

堂に入ったパフォーマンスと完璧主義な楽曲、何より歌唱力でインパクトを残しつつも、アーティストとしてはまだまだ駆け出しの69。「人生2回目?」と冗談めかすKOHEIだが、彼らにはそう言われて納得してしまうほどのポテンシャルがある。
「今の世の中、不安が多いですよね。どうですか皆さん。今の世の中、安心安全?」
2度目のMCでゆとりくんが話題に出したのは、最近の世の中は荒んでいるのでは?ということだった。
ゆとりくんが語るところによると、世の中には「正解っぽいもの」と「不正解っぽいもの」が浮遊していて、皆がなんとなくその空気に毒づかれたり、ポジティブになったり、ネガティブになったりして、自分を計っている。しかし、必ずしも結果が全てではなく、皆それを100%受け入れられるメンタルでもない。
「みんな頑張ってるんですが、頑張ってると目線が狭くなるじゃないですか。そんなときこそタオな視点を持って、1年後、5年後、10年後、何してるのかなって考えるだけでも救われると思うんですよ」
「僕がしきりに“タオ”って言うのは、自分自身がその気持ちを持ち切れてないからなんです。そのうえで何かを作り続けた方がいいと思っています。だって、作るってすごくかっこよくて、恥ずかしいことじゃないですか。どういうリアクションが来るかもわからないし。だから僕は作ってる人をリスペクトしてるし、みんなも作り続けてほしい。僕も作り続けるので、みんなで頑張ろう!」
「そんな僕が、いろんな葛藤の中で作った曲です」と話して、ゆとりくんは「アンチメン」をドロップ。しゃがみこみ、観客の顔を覗き込んで語り掛けられる語彙はネガティブなものが多いけれど、それらが連なれば不思議とポジティブな印象になる。高らかなコーラスに始まる「PARADOX」では、ゲストにアバンティーズのSoraが登場。腰を落とし、観客と視線を合わせ煽り立てる弾丸ラップに、フロアも口笛や歓声で応える。

あっという間にライブは終盤。バンドメンバーの紹介を経て、虹色のライトが照らすのは「mirrorge」だ。「鏡よ鏡」の歌詞でKOHEIと向かい合ったかと思えば、弾かれたように暴れ回り、身体をくねらせカメラを覗き込むゆとりくん。その姿はとても2度目のライブのパフォーマンスとは思えない。続く「pool」ではゲストのさらさと拳をぶつけ合い、淡いドットが飾る舞台に3人のハーモニーが折り重なった。

本編ラストの前に、ゆとりくんはアメリカ・アリゾナ州のパワースポット、セドナに行っていたことを話す。セドナでは巨大なキリスト像のある教会に立ち寄り、その後、登山から戻っていたゆとりくんがふと空を見ると、先ほど訪れた教会から反射した光が輝いていた。
「それを見た時に思ったんですよ。誰かが決めた枠組みの中に収まるのは違うなって。自分が自分なりの視点で生きていれば、振り返ったときに、何か自分の道と交差することがあるんじゃないかと。だから僕は僕の物語を生きたいし、みんなも自分の物語を生きてください」
そうしてライブ本編は、彼らを象徴する楽曲「TAO」で幕を下ろした。
「TAO!」のコールに呼ばれて「ありがとう」とひとり再登場したゆとりくん。ステージはここから撮影OKとなる。
「最後まで楽しんで行こうぜ!」
その言葉と共に、アンコール1曲目には新曲“VintageTee☆”が選ばれる。舞台の上で跳ね上がり、奔放に踊り、のけ反って内なるエネルギーを開放させるゆとりくん。それでも観客が向けるスマホのカメラに視線を送り、ピースサインを作ることは忘れない。
歌い終えて感謝の言葉を口にするゆとりくんのもとへ現れたのは、バースデーソングを歌うKOHEIとSora、そしてさらさだった。その手にはケーキとキャンドルも乗せられている。突然のサプライズに驚きながらも、ちゃんと蝋燭を一息で吹き消して、ゆとりくんは「最高の誕生日」と少し早い誕生日を喜んだ。そんな彼が語る来年の抱負は「全ての運命を引き寄せて宇宙を創る」ことだ。
ここでアンコールの2曲目に向かうが、ゆとりくんとKOHEIは何を歌うか決めていないらしい。そこで観客に数曲を提示し、「せーの」で曲名をコールしてもらい、多数決を取る方式となる。結果は「TAO」の圧勝だ。ふたりはステージの仏像を拝み、肩を組んで、シンガロングを浴びて心地よく歌う。手を挙げて踊るフロアの人波の向こうに、純粋に音楽を楽しむゆとりくんとKOHEIの笑顔が輝いている。この日、全ての楽曲の最後に、ゆとりくんは感謝の言葉を口にしていた。
「みんなで良い時代作ろう!」
スピリチュアル、引き寄せ、エネルギー、タオ。彼らが頻繁に口にするそれは表層的なものではなく、音楽にも根差した人生哲学である。一度でも彼らのステージを観れば、生の音楽を聴けば、その言葉の意味するものがわかるだろう。KOHEIと共に両手を合わせて歌い終えたゆとりくんは、ピースサインを作って観客へ背中を向け、この夜のステージを後にした。

Text:安藤さやか
カメラマン:小林弘輔
■公演情報
<69 ONEMAN LIVE タオイズム>
2025年12月15日(月)東京・渋谷WWW
[セットリスト]
1.ハグレモノ
2.成り上がリッチ
3.Y2N
4.Q
5.スピってる
6.junk(ey)
7.FLEXIN
8.BLUE BOTTLE
9.雪国
10.SUMIRE
11.アンチメン
12.PARADOX〔Guest Sora〕
13.mirrorge
14.pool〔Guest さらさ〕
15.TAO
En1.VintageTee☆
En2.TAO
[Profile]
69(無垢)は学生時代からの友人であるYTRとKOHEIによる2人組のボーカルユニット。90年代裏原宿的ムードに影響を受けたミクスチャーサウンドを奏でる。行き急ぎすぎたYTRのNOIZEとレイドバックしたKOHEIのBLUES。2024年10月活動開始。
[SNS]
YTR
X: https://x.com/katap_yutori
instagram: @yutorikun_
KOHEI
X: https://x.com/buzzer_chiba
instagram: @_kohei_chiba_